市川市の精神医療福祉
~しっぽふぁーれができるまで~
千葉県市川市は48万人の人口を抱える東京都に隣接するベットタウンです。
精神障害のある人が働くグループホームや作業所が他の地域に比べて充実傾向にあると言われ、
家族会の活動も盛んで、地域の理解も進んでいると言われています。
日本の精神科医療が抱える課題
1950年代頃から欧米では脱施設化が進み、心に病を持つ人たちが地域で暮らせるようになりました。
そうしていく中で、例えば交通機関を使って病院に通うことができない人や集団の中に入っていくことができない人々などが病院や施設に通えず、サービスからこぼれ落ちてしまうことが分かってきました。
その人の生活の場に、医療や福祉のスタッフが赴いていく。
このような包括型地域生活支援が1970年代のイタリアやアメリカで始まりました。
日本では同じころ、重い心の病をもつ人々は精神科病院に長期にわたり入院せざるを得ない状況でした。欧米とは逆にどんどん精神病院が増え、病院数・ベッド数ともに世界一になりました。
しかし、1980年代に入り、ついに日本でも脱施設化の流れになってきました。
ACT-Jとは
Assertive Community Treatment:ACT(包括的地域生活支援プログラム)は、
1960年代後半にアメリカで生まれ、多くの国に普及した地域医療および各種生活支援を含めた支援プログラムです。
市川市にある日本初のACTチームであるACT-Jは、2003年(平成15年)に研究事業として国立精神神経センター・精神保健研究所と同センター国府台病院で開始されました。このときACT-Jの活動に当院の院長である伊藤順一郎も尽力しました。
症状がよくなるだけでなく、障害を持っていても地域の中で生き生きと暮らしていける、そのために多職種のチームで24時間365日対応で訪問型サービス等を実施しました。
研究終了後もACTプログラムの考えを引き継ぎ、現在は認定NPO法人リカバリーサポートセンターACTIPSの事業である訪問看護ステーションACT-JにあるACTチームと国府台病院および当院が連携し、活動を継続しています。(令和4年1月現在)
マディソンモデル活用事業
当時の千葉県堂本知事がACTの生まれた地域であるウィスコンシン州マディソン市を訪れたことがきっかけで、2005年~2007年に市川市内で実施された事業です。市川市が選ばれたのは精神保健について他の地域よりも進んでいると言われているからです。取りくみには行政、施設、家族会や病院、医師会など、様々な人々が関わりました。
事業では、作業所やグループホーム、ACTだけでなく、具合が悪い時を乗り切るための家(クライシスハウス)、ピアスタッフが運営する活動の場(クラブハウス)といったマディソン市の資源をモデルにした仕組みをネットワークでつなぎ、心の病を抱える人の支援に取り組みました。現在もそのネットワークは形を変えながらも残っており、市川市の精神保健医療福祉をより良いものにしようと努力を続けています。
2015年しっぽふぁーれ活動開始
このような流れの中で、当院の院長である伊藤順一郎の退官を機に仲間が集まり、より地域に根差した医療を提供するため、病院に通えない方を対象とした訪問診療を中心とした診療所として、”メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ”は開業しました。医師をはじめとした多職種で活動しています。
2021年には”医療法人社団ここらるら”が設立され、新たなチャレンジがはじまります。
私たちは地域の皆さんと対話し、ともに考え、心の病や障害を抱える人々が地域の中で自分らしく人生を送れる社会をつくることを市川市から活動し発信していきます。